【コラム】聖徳太子と柏原 (4)蘇莫者

2022年4月19日

 四天王寺に伝わる舞楽に、蘇莫者(そまくしゃ)というものがあります。聖霊会で、天王寺楽所によって四天王寺の石舞台の上で笛が演奏され、舞人が踊ります。内容は、「聖徳太子が亀の瀬を渡る際に笛を吹いたところ、老いた猿に姿を変えた信貴山の神が現れ、笛の音に合わせて舞い踊った」というものです。太子の笛の音がすばらしく、神さままで踊り出すほどであったということです。亀の瀬で対岸に渡ることは考えられませんが、太子が龍田道を利用して、亀の瀬をしばしば通っていたと考えられていたところから生まれた話だと思います。
 聖徳太子が寅の年、寅の月、寅の日に信貴山に参られたところ、毘沙門天が現れ、その毘沙門天に物部守屋討伐を祈願し、無事に成就したと信貴山では伝えられています。信貴山朝護孫子寺の創建が聖徳太子のころまで遡ることは考えられませんが、龍田道を利用していた太子が、それほど遠くない信貴山にもお参りしたに違いないと考えて生まれた話だと思います。
 このように蘇莫者や信貴山の伝説は、龍田道と聖徳太子の強い関係を示す話と考えられます。のちの時代の人たちが、そのように信じていたということでしょう。
 蘇莫者に似た話が三郷町の持聖院に伝わる『惣持寺縁起』にみられます。縁起では、太子が斑鳩に帰る途中、椎坂(勢野付近か)で仙人と出会い、「納蘇利(なそり)」という舞楽を教わったというものです。やはり龍田道と聖徳太子の関係から生み出された話と考えられます。
 これらの話は伝説にすぎません。しかし、龍田道と聖徳太子との深い関係を示しているとともに、舞楽と聖徳太子を結びつける考えもあったことがわかります。これも太子伝説の一つのかたちと言えるでしょう。

(安村)

コラム4蘇莫者に出てくる信貴山の神(天王寺楽所雅亮会提供)

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